うす暗い館内でようやく自分の座席を見つけた。
その安堵感から生まれた悲劇だった。
「イタッ」
「ごめんなさい」
自分の席の手前に座っていた方の足を踏んでしまった。
「ごめんなさい」
自分の席に座る前にもう一度お辞儀して謝った。
この時はもう、その方の顔も見られなかった。
申し訳なさ、後ろめたさの鳴門海峡に巻き込まれたまま、
映画の予告編は始まった。
TOHOシネマさん。もっと会場を真っ暗にしておくれ。

#原作:椎名軽穂/監督:熊澤尚人
映画【君に届け】
■2015年3月27日(金)21:00より日本テレビでTV上映start.
本編が始まってしまえば、『君に届け』の世界にすっかり
入り込んでいた。
席替えのエピソード、やっぱり好きだなぁ('09.10.17)
席替えをした放課後。
爽子(多部未華子)がクラスメイトと初めての寄り道をする。
龍(青山ハル)の実家、ラーメン屋で悲劇は起こった。
“ぐううぅ”
まぎれもなく、私のお腹から鳴っている。
そういえば、お昼を食べてからだいぶ時間が経っていた。
千鶴(蓮佛美沙子)が美味そうにラーメンを食べるんだこれが。
お隣さんにはもうこれ以上迷惑を掛けたくない。
この時はなんとか抑えた。
周囲の噂話によって、爽子たちの間に距離が生まれる。
落ち込む千鶴。川原の土手で座り込んでいる。
そこに現れる龍。
龍
「肉まんか」
千鶴
「あんまんだよ」
“ぐううぅ”
三つ目の台詞は私のだ。
こんなに良いシーンなのに。
もう残念以外のなにものでもない。
物語は進む。
重要な場面が多いためか、静かなシーンの多いこと。
そして、告白。
もう“生まれる”っていうくらいチカラを入れて踏ん張った。
ちょっと泣いているお隣さんの涙を止めてしまわぬように、
良いシーンになればなるほど、別の意味でチカラが入る私。
エンディング。
flumpoolの“君に届け”が流れる。
これから映画を観ている方へ。
最後まで席を立たずにお待ちください。
少しだけ、物語が続きます。
千鶴と龍があの土手で座っている。
手には肉まんとあんまんが1個づつ。
どちらも食べたい千鶴。
龍が半分に割って、ふたりで分ける。
まだ地球上に言葉がない時代からの
“I Love You”のカタチだと思う。
エンディング曲も流れているし、お腹を気にすることなく
心置きなく心打たれることができた。
映画館は明るくなり、お隣さんは満足そうな顔を浮かべて
席を立っていった。
その後姿に私はもう一度、深々とお辞儀をしていた。
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-テレビ放送歴-
2011年秋
10月28日(金)21:00より日本テレビ